「あなたは自分の現実の創造主である」— この言葉の持つ力強い響き。
しかし、目の前に横たわる厳しい現実とのギャップ。
なぜ、宇宙の法則を知りながらも、人生はかくも困難な試練をもたらすのでしょうか。
数あるスピリチュアルの名著の中でも、ひときわ異彩を放つ一冊、それがセスが語り、ジェーン・ロバーツが記した『夢、進化、そして価値実現(英語版)』です。
この書は、単なる高次元からのメッセージ集ではありません。
それは、一人の人間が「現実創造」という宇宙の真理と、自らの肉体がもたらす壮絶な苦悩との間で格闘した、魂の記録そのものなのです。
本書の執筆時、著者ジェーン・ロバーツは深刻な病の渦中にいました 。
甲状腺機能の低下、関節炎、歩行困難といった肉体的な自由を失っていく中で、彼女は高次元存在セスの言葉を紡ぎ続けました。
なぜ、宇宙の叡智を伝える「創造主」自身が、これほどの苦難を体験しなければならなかったのでしょうか?
このブログシリーズの前編では、まず本書が生まれた背景にある、この深遠で人間的なドラマに光を当てます。
ジェーンと、彼女を支え続けた夫ロバート・バッツの個人的な葛藤を通して 、セスが語る「価値実現」という概念が、私たちの生身の人生にどのように関わってくるのかを探求していきます。
本記事のラジオ形式の音声版をご用意いたしました。
文章を読む時間がない時や、リラックスしながら内容を深く味わいたい時などにご活用いただければ幸いです。

ジェーン・ロバーツを襲った試練
『夢、進化、そして価値実現』は、その序文から読者を強烈に揺さぶります。
なぜなら、本書の多くはジェーンの夫、ロバート・バッツによる痛切な記録から始まるからです。
それは、セスの叡智を伝える妻ジェーンが、肉体の衰弱という避けがたい現実に直面し、もがき苦しむ姿の克明な記録でした。
夫ロバート・バッツが綴る、ジェーンの病状と入院生活
本書の執筆が進むにつれて、ジェーンの肉体は悲鳴を上げていました。
彼女を襲ったのは、単なる不調ではありません。
それは、彼女の生命力を根底から揺るがすような、深刻な症状の複合体でした。
- 重度の甲状腺機能低下症(Hypothyroidism):
彼女の甲状腺は機能することをほぼ停止していました。 - 突出する眼球と複視:
視界は二重になり、目はその輝きを失っていきました。 - 聴力のほぼ完全な喪失:
周囲の世界との繋がりを断ち切るかのような静寂が彼女を襲いました。 - 貧血と褥瘡(床ずれ):
動けなくなった体には、絶え間ない痛みを伴う褥瘡ができ、彼女の尊厳を蝕んでいきました。
ペンを持つことさえ困難になり、ついには椅子からベッドへ移ることすらままならない状態に陥ります。
セスという偉大な意識の代弁者でありながら、彼女は一人の人間として、肉体的な限界と屈辱に直面していました。
冷たい検査台の上で奇怪な装置に頭を囲まれ、他人の前で身体の自由を奪われる無力感。
その体験は、彼女に「一体私は自分自身をどんな目に遭わせているんだ?」と自問させるほど壮絶なものでした。
「魂は、他の場所に安息を見つけん」- 彼女が口ずさんだ予言的な歌
ジェーンが入院する数日前、彼女は自らの運命を予言するかのような、不思議な歌をテープに口ずさんでいました。
それは彼女がトランス状態で話す「スマリ語」という未知の言語の歌でした。
夫のロバートが後にそのテープを発見し、その悲痛な音色に衝撃を受け、翻訳を頼むと、彼女は重い口を開き、こう告げたのです。
“Let my soul find shelter elsewhere — 魂は、他の場所に安息を見つけん”
この一節は、彼女の魂がこの苦しい肉体を離れ、非物質的な領域へ避難することを真剣に考えていた可能性を示唆しています。
あまりにも不吉で痛切なその響きに、彼女自身もそれ以上の翻訳をすることを頑なに拒んだといいます。
ここに、セスの教えを知り、自らも実践しようとする一人の人間の、深い内面的な恐怖と、生きることへの葛藤が垣間見えます。
ジェーン自身の言葉で語られる苦悩と、現実創造への問い
ジェーン自身もまた、この苦悩の中から、セスの教えと自らの体験との間に横たわる巨大な溝について、率直な言葉を口述しています。
「もし生命がセスが主張するように偉大な可能性を持っているのなら、もしそれがこれほど豊かで創造的、生産的なレベルで始まった(そして今も始まり続けている)のなら、なぜ私たちの経験は、私たちが無知な、あるいは無関心な宇宙の力と闘っているように、あるいは、自分自身の源泉と創造性についてあまりに無知であるために、私たちの手は縛られているように思わせるのだろうか?」
この問いは、多くの探求者が一度は抱くであろう、普遍的で魂からの叫びと言えるでしょう。
彼女は、自らの体験を偽ることなく、その矛盾と苦しみを真正面から見つめ、答えを求めていたのです。
なぜ「現実の創造主」が苦しむのか? – セスとバシャールの視点
では、セス自身はこのジェーンの苦しみをどのように捉えていたのでしょうか。
彼は、この一見ネガティブに見える出来事の中に、極めて重要な魂の学びと「セラピー(治療)」のプロセスを見出していました。
セスが示す「警告」の意味:生命の可能性が失われる時
セスは、ジェーンが口述した序文の中で、このような状況を「警告」という言葉で表現しています。
「生命の炎が、潜在的なエネルギーと欲望を得るのではなく、失い、弱まる兆候を見せるとき、危険信号が至る所に現れます。それは国家的規模での戦争や社会的な障害として、そして家庭の危機として、個人的なレベルでの災厄として現れるのです」
セスが語る「生命の炎」とは、本書の根幹をなす**「価値実現(Value Fulfillment)」**への根源的な衝動に他なりません 。
生命はただ存続するだけでなく、その質を豊かにし、経験を通じて新たな価値を創造しようとする内的な力を持っています。
しかし、私たちが何らかの理由でその流れに逆らうとき――セスが指摘するように、「ためらい、エネルギーを出し惜しみ、信頼ではなく恐れに導かれる」とき――、その不調和が「警告」として表面化します。
ジェーンの病は、まさにこの内なる自己からの警告でした。
それは、彼女の意識の深いレベルで、生命の自然な流れが堰き止められていたことへのサインだったのです。
重要なのは、この「警告」が決して罰や呪いではないということです。
むしろそれは、自己破壊的な軌道から私たちを救い出し、本来の輝きと可能性に満ちた道へと引き戻そうとする、内なる自己からの究極の愛に満ちたサインなのです。
それは、無視されてきた内面の病に注意を向けさせ 、魂の成長と変容を促すための、力強い触媒としての役割を担っているのです。
病気という「セラピー」:弱さを認め、新たな自分と出会うプロセス
さらにセスは、ジェーンの病が決して無意味な苦しみではなく、極めて重要な目的を持った**「治療的(therapeutic)」**なプロセスであったと明らかにします。
それは、表面的な症状を取り除く対症療法ではなく、魂の根源的な不調和を癒すための、深遠なセラピーでした。
「弱さと不十分さが、それらが適切に対処され、働きかけられ、そして(私たちが見ていくように)答えられる場所で、積極的に演じられたのです」
この強烈な体験を通じて、ジェーンは自らが無意識のうちに作り上げ、囚われていた**「超完璧な自己イメージ(superperfect self-image)」**という名の重い鎧を打ち砕かれました。
セス・マテリアルという偉大な叡智の伝達者として、完璧でなければならない、弱みを見せてはならないという、知らず知らずのうちに抱え込んでいた精神的な束縛。
病という、抗いようのない肉体的な現実は、その幻想を容赦なく破壊したのです。
この「完璧な鎧」が砕け散ったとき、彼女は初めて、孤高の存在であろうとすることをやめ、一人の無力な「被造物(creature)」として、他者に助けを求めることを学びました。
セスはこれを「被造物であることの扉を叩く」と表現しています。
それは、分離した個人という幻想から目覚め、他者と助け合い、支え合う「生きとし生けるものの集い(living congregation of creatures)」の一員として、自分自身を再発見するプロセスでした。
この瞬間、彼女の人生における「ゲームのルール」は根本的に変わったのです。
もはや完璧さを目指す孤独な戦いは終わり、弱さや不完全さを受け入れ、他者と繋がりながら真の「価値実現」を目指す、新しい人生のゲームが始まったのでした。
【バシャールとの比較】観念が現実を創り、病が学びとなる
このセスの視点は、高次元存在バシャールの教えと驚くほど深く共鳴します。
バシャールは、私たちが体験する現実はすべて、自らの「観念(信念体系)」が創り出すと強調します。
そして病気や不調でさえ、私たちにとって「役に立たない観念を手放すプロセス」 であり、自分自身について何かを教えてくれる貴重な「学びのプロセス」 なのだと語ります。
セスが語る「ジェーンの病は、彼女に弱さを認めさせ、超完璧な自己イメージを打ち砕くための治療的なプロセスだった」 という見解は、まさにバシャールの言う「学びのプロセス」そのものです。
両者は異なる言葉を使いながらも、困難や病という体験は、魂の成長と意識のシフトのために自らが引き起こす、極めて重要な機会であるという共通の真理を示しているのです。
まとめ:苦悩の闇から差し込む、叡智の光
『セスブック5 夢、進化、そして価値実現』の前編は、私たちに極めて重要な問いを投げかけます。
それは、高次の法則を知ることと、それをこの物質世界で体現することの間には、時に深い谷が存在するということです。
しかし、ジェーン・ロバーツの壮絶な個人的体験は、セスの教えに机上の空論ではない、生々しい現実感と人間的な深みを与えてくれました。
彼女の苦悩は、私たち自身の人生における困難や、理想と現実のギャップもまた、魂が自ら選んだ「価値実現」への道の一部であり、深い意味を持つ学びのプロセスであることを教えてくれます。
中編では、いよいよ本書の核心である「宇宙創成の秘密」と「価値実現の深淵」へと迫っていきます。
次の中編はこちらです↓↓↓↓

ブログを読んで、さらに見識を深めたいと思ったらぜひ本書を手に取ってみてください。
ただし、本書は日本語訳版はまだ発売されていないので、英語版のみとなります。