前編では「思考が現実を創る」という基本法則を、そして中編では私たちが直面する「内なる困難の正体」を探求しました。
さて、いよいよ最終章となる後編です。
ここで、あなたに一つの問いを投げかけたいと思います。
『もし、あなたの今の人生が、無限の可能性を持つ “ありそうな現実” の中から、あなた自身が毎瞬、選び取っている一つのバージョンだとしたら——?』
私たちは、無数に存在する「ありそうな現実(並行現実)」の中から、どのようにして現在の体験を選び取っているのでしょうか。
セスはその答えを、「力のポイントは、現在にある」という、シンプルかつ深遠な真理のうちに示します。
これは、あなたが人生の傍観者であることをやめ、自らの手で望む現実を彫刻していく「マスターアーティスト」になるための、セスからのレッスンです。

本記事のラジオ形式の音声版をご用意いたしました。
文章を読む時間がない時や、リラックスしながら内容を深く味わいたい時などにご活用いただければ幸いです。


「ありそうな現実」からあなたが世界を選ぶ

私たちの目の前にあるこの現実は、唯一絶対のものではありません。
セスは、私たちの意識が知覚できない領域に、文字通り無限の「ありそうな出来事(Probable Events)」のフィールドが広がっていると語ります。
それは、物理的に体験される可能性を秘めた、無数の未来、無数の過去、そして無数のバージョンのあなた自身が存在する、広大な可能性の貯蔵庫です。
この考え方は、私たちの多くが耳にしたことのある「並行現実(パラレルワールド)」の概念と深く響き合います。
全ての現実は「今、ここ」に同時に存在しており、私たちの意識は、信念という周波数(波動)に同調する現実を、フィルムのコマを切り替えるように毎秒毎秒、選択し続けているのです。
セスの言葉
「あなたの意識的な信念は、指揮を執るエージェントとして機能し、特定の物理的でない『ありそうな出来事』を他から分離し、それらを三次元の現実へと引き込むのです。」
あなたが今「自分」だと思っている人格でさえ、無数に存在する「ありそうな自己」の中から、現在のあなたの信念によって活性化された一つのバージョンに過ぎません。
あなたが自分についての信念を変えれば、あなたの体験も、そしてあなた自身も変わります。
それは単なる比喩ではなく、あなたは文字通り、昨日とは違うバージョンのあなたになり、異なるバージョンの世界を体験し始めるのです。
「力のポイント」は過去ではなく「現在」にある

この教えこそ、本書の核心であり、私たちをあらゆる制限から解放する最もパワフルな鍵です。
セスは繰り返し、こう断言します。
THE POINT OF POWER IS IN THE PRESENT.
(力のポイントは、現在にある)
私たちは、「過去の出来事が原因で、現在の自分が苦しんでいる」と信じがちです。
しかし、真実はその逆です。
現在のあなたの信念が、あなたの過去の記憶を再構成し、未来の体験を引き寄せているのです。
もしあなたが今、「自分は愛されない人間だ」と信じているなら、あなたはその信念を証明するために、過去の膨大な記憶の中から「愛されなかった経験」だけを磁石のように引き寄せ、それ以外の楽しかった記憶は「見えなく」してしまいます。
あなたは過去の犠牲者なのではなく、現在の信念のマスターなのです。
セスの言葉
「過去と未来は、あなたの現在の信念によって変更される。…あなたの現在の行動のポイントから、あなたは過去と未来の両方を形成する。このことを理解すれば、あなたは過去のせいで無力であると感じることはなくなるだろう。」
過去は固定されたものではありません。
それは現在の信念によって照らし出され、再編成される、流動的なエネルギーのパターンなのです。
このことを本当に理解したとき、あなたは過去のトラウマや、いわゆるカルマの呪縛から解放されます。
なぜなら、どんな過去でさえも、それを変える力を持つ「現在」という瞬間が、常にあなたの手の中にあるからです。
「自然な催眠」:信念を書き換える強力なツール

では、具体的にどうすれば「現在」の力を使って信念を書き換えることができるのでしょうか?
セスはそのための驚くべきツールとして「自然な催眠(Natural Hypnosis)」を提示します。
セスによれば、「催眠」とは特別な儀式やトランス状態のことではありません。
それは、私たちが日常的に行っている「特定の信念に強く、集中的に注意を向ける行為」そのものなのです。
セスの言葉
「あなた方の信念は、催眠術師のように振る舞う。特定の指示が与えられている限り、あなた方の『自動的な』経験はそれに従うだろう。」
あなたが「自分は病気がちだ」と信じているなら、あなたはその信念で自分自身に催眠をかけ、病気になるという現実を忠実に実行しています。
医師や専門家、広告の言葉が強力な効果を持つのは、私たちが彼らを「権威」と信じ、その言葉に集中して注意を向けることで、自ら催眠状態に入っているからに他なりません。
信念を変えるための具体的な実践法

この「自然な催眠」の仕組みを、今度は意図的に、自分の望む現実を創造するために活用することができます。
セスが提案する実践法は非常にシンプルですが、その各ステップには深い意味が込められています。
- 目標の設定:
まず、あなたが新たに持ちたい信念を、肯定的でシンプルな言葉で決めます。
(例:「私は豊かで、あらゆる豊かさを喜んで受け取る」)無意識は否定形を理解しにくいため、「貧乏でなくなりたい」ではなく、望む状態を直接的に表現します。 - 集中の時間:
1日に5分から10分、誰にも邪魔されない時間を取ります。
その間、他のことはすべて脇に置き、決めた言葉だけを心の中や声に出して繰り返します。
この集中の状態が、日常の雑多な信念の「ノイズ」を遮断し、新しい信念を無意識に直接届けるための神聖な空間を創り出します。 - 感覚を伴わせる:
その言葉が真実であるかのように感じ、その状態になったときの感情や喜び、安堵感を想像力の中で存分に味わいます。
感情や五感を伴わせることは、信念に強力な電磁気的なリアリティを与え、物質化を加速させます。 - 完了と忘却:
時間が来たら、エクササイズをすっぱりと終え、そのことは忘れてください。
「結果はいつ出るだろう?」と確認する行為は、「まだ実現していない」という欠乏の信念を強化してしまうため、逆効果です。
宇宙のプロセスを信頼し、手放すことが重要です。
この「手放し」の重要性は、バシャールが提唱する『ワクワクの公式』における「ただし、結果には一切執着しないこと」という部分と見事に一致します。
結果をコントロールしようとする自我の働きを手放し、宇宙の無限の可能性に委ねることで、初めて予期せぬ素晴らしい形で必要なものがもたらされるのです。 - 物理的な行動:
1日に一度でいいので、新しい信念に沿った、たとえどんなに小さなことでも構わないので「物理的な行動」を起こします。
これは、あなたの新しい意図を物理次元に「錨(アンカー)」を下ろすための象徴的な儀式です。
例えば、「豊かさ」を信じるなら、いつもより少しだけ質の良いコーヒーを、自分への投資として味わって飲む、といったことです。
この実践は、あなたの意識的な意図を、無意識と肉体のレベルにまで浸透させるための強力なプロセスです。あなたの現在の力が、新しい「ありそうな現実」へと舵を切り始めるのです。
問題の転移と創造的な「破壊」
セスは、私たちの内なる世界が、天候や自然災害といった、壮大なスケールの物理現象にまで影響を与えていると語ります。
これは単なる比喩ではなく、私たちの感情や思考が持つエネルギーが、実際に物理世界と相互作用しているという、深遠な現実の仕組みを指し示しています。
内なる嵐と外なる嵐:感情と自然現象の共鳴

私たちが自然から切り離された孤立した存在であるという考えは、幻想に過ぎません。
個人の内なる感情(嵐)が、どのようにして外部の物理現象(嵐、災害)と共鳴し、それを創造する一因となっているかをセスは説明します。
セスの言葉
「天候は、ある領域に住む人々の感情を忠実に反映する。…あなた方は天候にただ反応しているのではない。あなた方はそれを形作る手助けをしているのだ。」
ある地域に住む人々の集合的なフラストレーションや怒り、あるいは抑圧された希望といった強い感情エネルギーは、セスが**「ゴースト・ケミカル」**と呼ぶ、まだ知られていない非物理的な側面を持っています。
これらの感情エネルギーは電磁気的な性質を帯びて大気中に放出され、物理的な天候パターンに直接影響を与えるのです。
つまり、長く続く干ばつは人々の希望の枯渇を、激しい雷雨は集合的な怒りの爆発を、そして巨大な洪水は、社会が抱える問題や感情を洗い流そうとする無意識の衝動を、それぞれ物質化した姿であるのかもしれません。
「創造的な破壊」に隠された意味
では、なぜ私たちは自ら災害のような破壊的な状況を創り出してしまうのでしょうか?
セスは、これらの現象にも「創造的な」目的が隠されていると語ります。
セスの言葉
「病気が創造的な基盤を持つことができるように、地震や自然災害もまた創造的な基盤を持つことができます。」
これは、一見ネガティブに見える出来事が、より大きな視点から見れば、成長と変容のために必要なプロセスである、という考え方です。
- 個人のレベルでは、重い病気や事故が、それまでの行き詰まった人生観や価値観を「破壊」し、生きることの本当の意味や新しい可能性に目覚めさせるきっかけとなることがあります。
- 集合意識のレベルでは、災害は、社会の硬直したシステム、不平等、人々の無関心といった停滞した状態を「破壊」する触媒となり得ます。
セスは1972年にアメリカ東部を襲った大洪水を例に挙げ、その災害が地域の隠れた経済問題や社会的分断を白日の下に晒し、結果として人々を団結させ、新たな共同体意識と復興のエネルギーを生み出すきっかけとなったと解説しています 。
災害は、私たちがいかに物質的な所有物や社会的な地位といった脆いものに依存しているかを暴き、生命そのものの力強さや、人と人との根源的な繋がりの尊さを思い出させてくれる、強烈な目覚めの機会とも言えるのです。
なぜ人は災害を体験することを選ぶのか?
セスは、災害の犠牲者となる人々でさえ、その体験を無意識のレベルで自ら選択していると語ります。
それは、決して罰や不運の結果ではありません。
セスの言葉
「いかなる状況であれ、死ぬ準備ができていない者は誰も死ぬことはない。これは自然災害による死にも、他のいかなる状況における死にも当てはまる。」
人々がそのような体験を選ぶ理由は、個人の魂の青写真によって様々です。
ある人々は、自然の圧倒的な力との対峙を通じて、自らの内に眠る生命力や生存本能、そして逆境に立ち向かう勇気を最大限に引き出すために、そのドラマチックな挑戦の舞台を選びます。
またある人々は、物質への執着から自らを解放するための、最も効果的なレッスンとしてその状況を引き寄せます。
さらにセスは、地震多発地帯のような不安定な土地に住む人々について、興味深い洞察を示しています。
セスの言葉
「彼らは、外部の状況と彼ら自身の非常に激しい内面および感情的な状態との驚くべき関係を無意識に理解しているため、そのような場所に惹きつけられます。
彼らは、自らを試すための強い現実との衝突を必要としているのです。」
私たちは、無力な自然の犠牲者なのではなく、自らの魂の成長に必要な学びの場として、その環境と共鳴し、共同で現実を創造している、パワフルな存在なのです。
この理解は、私たちに自然への深い畏敬の念と、自らの集合的な感情や思考に対する、より大きな責任感を教えてくれます。
究極の自己肯定:「愛」と「受容」がもたらす変容
これまで述べてきたすべてのテクニックと理解の根底にあるもの、それは究極の「自己肯定(Affirmation)」です。
自分自身を愛し、あるがままを受け入れる

セスが語る「肯定(Affirmation)」とは、無理にポジティブに振る舞うことや、あらゆる出来事を盲目的に受け入れることではありません。
それは、「あなた自身のユニークな個性と、魂が肉体を持って存在しているという事実そのものを、愛をもって、ありのままに受け入れること」です。
興味深いことに、この肯定には「否定」も含まれます。
自分自身の本質を肯定するがゆえに、それにそぐわない他者の信念や状況に対して、健全に「ノー」と言う権利を自分に認めることです。
自己肯定とは、迎合ではなく、自らの真実に基づいて主体的に選択する力なのです。
セスの言葉
「あなたはあなた自身を愛さなければ、他の誰も愛することはできない。それは不可能だ。…まずあなた自身を愛しなさい。そうすれば他者も公正に扱えるだろう。」
このセスの言葉は、多くの霊的な教えの核心に触れています。
しかし、私たちはしばしば「謙遜」を美徳とし、自分を後回しにすることを「愛」だと考えがちです。
セスは、そのような「偽りの謙遜(False humility)」は、実際には自分自身の価値を否定する行為であり、結果として他者への嫉妬や、無意識の支配欲につながると指摘します。
なぜなら、自分の中に価値を見出せない者は、他者の中にも真の価値を認めることができず、他者の成功を脅威と感じてしまうからです。
真の自己愛、すなわち自分自身の存在を深く肯定することによってのみ、私たちは他者のユニークな才能や輝きを、心からの喜びをもって祝福することができるようになるのです。
憎しみの感情の根源にあるもの
自己肯定の旅において、私たちが最も向き合うことを恐れる感情の一つが「憎しみ」や「怒り」かもしれません。
しかしセスは、たとえそのような感情が自分の中に渦巻いているのを見つけたとしても、それを「悪いもの」として裁き、否定するべきではないと語ります。
そうではなく、「なぜ今、自分はこれを感じているのだろう?」と、正直に、そして勇敢にその感情の源泉を見つめることが重要です。
セスの言葉
「憎しみは、愛する対象からあなたを隔てる状況への痛みを伴う認識です。
憎しみは愛の否定ではなく、それを取り戻そうとする試みであり、あなたを愛から隔てる状況への痛みを伴う認識なのです。」
この洞察は、私たちの感情に対する見方を根底から変える力を持っています。
つまり、憎しみとは、愛の欠如ではなく、強烈な愛の裏返しなのです。
私たちは、どうでもいい相手や、何も期待していない物事に対して、憎しみというほどの強いエネルギーを抱くことはありません。
親を憎むのは、親からの深い愛を期待しているからであり、世界を憎むのは、この世界が本来もっと愛に満ちた場所であるはずだと、心のどこかで信じているからです。
子供が親に向かって「大嫌い!」と叫ぶとき、その言葉の裏には「あなたを大好きなのに、どうして私の想いを分かってくれないの?」という、愛への渇望が隠されています。
憎しみとは、そのように引き裂かれた愛の痛みであり、その痛みを正直に感じ、表現することは、再び愛の繋がりを取り戻すための、魂の自然でパワフルな試みなのです。
まとめ:無限の可能性から望む人生を創造する
この三部作を通して、私たちはセスと共に「個人的現実の本質」を探る旅をしてきました。
- あなたの現実は、あなたの信念が創り出している。(前編)
- 病や困難は、解放されるのを待っている内なるメッセージである。(中編)
- そして、現実を変える力は、常に「今、この瞬間」にあり、あなたはその力を解放する具体的なツールを持っている。(後編)
あなたは、あなたが信じる通りのあなたであり、あなたの世界は、あなたが信じる通りの世界です。
セスが遺してくれたこの深遠なメッセージは、私たち一人ひとりが、自らの人生の偉大な創造主であることを思い出させてくれます。
もう他人のせいにしたり、過去を悔やんだりする必要はありません。
あなたの手の中には、いつでも「現在」という、無限の可能性を秘めた力のポイントがあるのですから。
ブログ記事を読んでさらに見識を深めたいと思ったらぜひ本書を手に取ってみてください。
日本語版・英語版ともにリンクを貼っておきます。<(_ _)>